連立一次方程式における,基本解・特殊解と解空間の定義とその性質について,理解しておくべき重要な定理を紹介し,証明しましょう。
連立一次方程式の基本解・特殊解と解空間
連立一次方程式
\begin{cases} a_{11}x_1+a_{12}x_2+\cdots + a_{1n}x_n = b_1 \\ a_{21}x_1+a_{22}x_2+\cdots + a_{2n}x_n = b_2 \\ \ldots \\ a_{m1}x_1+a_{m2}x_2+\cdots + a_{mn}x_n = b_m \end{cases}
は,行列を用いて表すと
とかけます。この式に対応して, A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} とかくことにしましょう。このときの A を係数行列といいます(→係数行列・拡大係数行列とは)。
これを用いて,連立一次方程式の基本解・解空間・特殊解を定義します。
連立一次方程式の基本解・解空間とは
連立一次方程式 A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} に対して, \boldsymbol{b}=\boldsymbol{0} とした連立一次方程式
A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}
を斉次といいます。 この,斉次連立一次方程式に関して,基本解と解空間が定義されます。
定義(基本解と解空間)
(右辺が \boldsymbol{0} となる)斉次連立一次方程式 A\boldsymbol{x} =\boldsymbol{0} の解 \boldsymbol{x}\in\mathbb{C}^n の集合
\color{red} W = \{\boldsymbol{x} \mid A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}\}
を解空間 (solution space) という。これは,ベクトル空間になる。また, W の基底となる解を基本解 (fundamental solution) という。
W は \mathbb{C}^n の部分ベクトル空間です。実際,
\begin{gathered}\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y} \in W \implies \boldsymbol{x}+\boldsymbol{y} \in W \\ \boldsymbol{x} \in W, k \in \mathbb{C} \implies k\boldsymbol{x} \in W \end{gathered}
となることからわかります。
ここで,もし A が正則行列(可逆行列)ならば, A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0} の両辺左から A^{-1} をかけて \boldsymbol{x}=A^{-1}\boldsymbol{0} = \boldsymbol{0} となります。すなわち, \boldsymbol{x} =\boldsymbol{0} のみが解となります。これを,自明な解といい,「この斉次連立一次方程式は自明な解しか持たない」といいます。
連立一次方程式の特殊解とは
特殊解は,一般の連立一次方程式 A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} の「解の1つ」として定義されます。
定義(特殊解)
一般の連立一次方程式 A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} が解をもつとき,その解の任意の1つ \boldsymbol{x'} を,その方程式の特殊解 (particular solution) という。
適当な解を一つだけ指して,特殊解というのですね。
そもそも,連立一次方程式 A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} が解をもつ必要十分条件は
\operatorname{rank} A = \operatorname{rank} (A, \boldsymbol{b})
ですが,今回は,連立一次方程式が解をもつものとして,先に進めます。
ここで,もし A が正則行列(可逆行列)ならば, A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} の両辺左から A^{-1} をかけて \boldsymbol{x}=A^{-1}\boldsymbol{b} となります。すなわち, \boldsymbol{x} = A^{-1}\boldsymbol{b} のみが解となり,特殊解は一つだけしかありません。
基本解・特殊解・解空間の性質
ここからは,基本解・特殊解・解空間の性質について述べましょう。
解空間の次元
定理(解空間の次元)
\color{red}\dim W = n - \operatorname{rank} A
である。特に,基本解は n - \operatorname{rank} A 個ある。
基本解は解空間 W の基底を指し,その個数は次元に一致していますから,後半は前半から直ちに従いますね。
前半の証明をしておきましょう。
証明
線形写像 A\colon \boldsymbol{x}\mapsto A\boldsymbol{x} について,次元等式
n= \operatorname{rank} A+\dim \operatorname{Ker} A
が成立する(→線形写像の次元等式dim V = rank f + dim ker fの証明)ことと, \operatorname{Ker} A = W であることから,
証明終
Ax=b の全ての解
以下の定理は,微分方程式の全ての解を網羅するときにも使います。
定理( A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} の全ての解)
A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} の特殊解(解の1つ)を \boldsymbol{x'} とする。このとき,この方程式の全ての解は
\color{red}\boldsymbol{x'} + W =\{ \boldsymbol{x'}+\boldsymbol{w}\mid \boldsymbol{w}\in W\}
の形でかける。逆にこの形でかけるものは全て A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} の解である。
解空間と,特殊解一つだけ分かれば,全ての解を網羅できる,と言っているんですね。基本解・解空間がいかに大事かが分かる定理です。
証明
\boldsymbol{x''} を A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} の解とする。このとき,
A(\boldsymbol{x'}-\boldsymbol{x''})= \boldsymbol{0}
であるから, \boldsymbol{x'}-\boldsymbol{x''}\in W である。よって,
逆に \boldsymbol{x''} \in \boldsymbol{x'} + W とする。すなわち, \boldsymbol{x''} = \boldsymbol{x'} + \boldsymbol{w} となる \boldsymbol{w}\in W が存在するとすると,
であるから, \boldsymbol{x''} は A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{b} の解である。
証明終
証明も含めて,理解するようにするのが理想です。